徳島県小学校教育研究会 道徳部会
 

令和2年度研究主題

1 令和2年度小教研道徳部会研究主題




語り合い深め合う学びを通して,自己の生き方を考える子供を育てる道徳教育
 ―子供が輝く 子供と創る 道徳科の授業―





2 研究主題について

(1)研究主題設定の背景

 時代の変化や子供たちの状況,社会の要請等を踏まえ,学校教育では,これまでの実践や蓄積を生かし,子供たちが未来社会を切り拓くための資質・能力を一層確実に育成することが求められ,今年度より新しく改訂された学習指導要領が実施される。
 道徳教育においては,「道徳教育の充実は,我が国の道徳教育の現状,家庭や社会の状況等を踏まえれば,いじめの問題解決だけでなく,我が国の教育全体にとっての重要な課題である」との認識の下,これまでの成果や課題を検証しつつ,道徳の新たな枠組みによる教科化が平成30年度より実施されている。
 本県においては,このような背景を踏まえ,研究主題を「語り合い深め合う学びを通して,自己の生き方を考える子供を育てる道徳教育」と掲げ,「考える道徳」,「議論する道徳」への質的転換を図るべく,研究を重ねてきた。
 令和元年度,徳島県小学校道徳教育研究大会会場校,北島町立北島北小学校においては,自校の課題を明確にし,重点課題を見直した上で,「主体的に学び合い,互いに高め合う子供を育成」するための指導方法や授業構成等の工夫が行われ,発問の精選や道徳ノートの活用,教員研修の充実などについて大きな成果が示された。また,研究の過程で教師の授業実践に向けての意欲が向上するなど,教師が子供にとっての深い学びとはいかなるものかを希求することの重要性が改めて認識された。
 以上のことから,本年度は昨年度の成果を生かし,引き続き「語り合い深め合う学びを通して,自己の生き方を考える子供を育てる道徳教育」を研究主題として掲げる。また,授業を中心として本主題に関する研究を進めるために,副主題を「子供が輝く 子供と創る 道徳科の授業」と設定する。道徳科の目標に根ざした育成すべき資質・能力を改めて見直し,道徳科の授業における子供や教師の姿を具体的に想定しながら,更なる指導方法の改善・充実を図ることとする。

 

(2)研究主題について

「自己の生き方を考える子供」とは

 「自己の生き方を考える子供」とは,「自己を見つめ,生き方についての考えを広げ深めるとともに,自らの生き方を育んでいく子供」と捉えたい。
 「自己を見つめる」とは,自分との関わり,つまり,これまでの自分の経験やその時の考え方,感じ方と照らし合わせながら,自分自身について考えることである。日常生活では,これまで培われた道徳的価値を基に判断したり行動したりしている。しかし,そのことを常に意識したり,道徳的価値への考え方や感じ方はどうであるかと意識したりすることは少ない。
 授業においては,ねらいとする道徳的価値と照らし合わせながら,自己の内にある道徳的価値への考え方や感じ方に改めて気付き,知ることができる。また,他者と対話したり協働したりすることで多様な考え方や感じ方にふれ,生き方についての考えを広げたり深めたりすることができる。
 このような自己を見つめる学習を通して,道徳的価値の理解* と同時に自己理解を深めることができる。
 「生き方について考えを広げ深める」とは,どのように自己の道徳的価値への考え方や感じ方が広がり深まったかを強く意識するとともに,これまでの自分の生き方はどうであったかを道徳的価値の理解を基に振り返ったり,これからの生き方の課題を考え,それらを自己の生き方として実現していこうとする思いや願いを深めたりすることである。授業においては,他者と思いや考えを語り合うことで,これまで培ってきた自分自身の考え方や感じ方に新たなものを加えたり,考え方を変えたり,また,より確かなものとしたりすることができる。そして,道徳的価値を基に自分を振り返り,内面的な成長に気付いたり,これからの課題や目標を見付け,自己の生き方として実現していこうとする思いや願いを深めたりすることもできる。
「自らの生き方を育んでいく」とは,日常生活や今後出会うであろう状況において,よりよく生きるために,道徳的価値を実現するための適切な行為を選択し,実践することができるような内面的資質を子供自ら育んでいくことである。それは,人間として生きるために道徳的価値が大切であることを理解し,様々な状況において,人間としてどのように対処することが望まれるかを判断し,行動に移していく力につながるであろう。自己を見つめ,生き方についての考えを広げ深めることのできる学習を具現化することにより,道徳科の授業だけではなく,日常の生活の中で誠実に課題に向き合い,道徳としての問題を考え続ける姿勢をもった子供を育てることができると考える。

「語り合い深め合う学びを通して」とは

 子供が自己を見つめ,生き方についての考えを広げ深める授業とするには,「語り合い深め合う学び」が不可欠である。相手を理解しようとする姿勢で語り合い,聴き合う。子供一人一人が各々にもつ思いや考えを交流させる。こうして,学びを深め合うことで,自己の道徳的価値への考え方や感じ方を再考したり,ねらいとする価値を深く理解したりすることができる。また,深め合った価値理解を基に,物事を多面的・多角的に考え,これまでの自分を振り返ったり,現在の自分を見つめたり,これからの自分について考えたりすることで,自己の生き方についての考えを深めていく。このような学びによって,「自己の生き方を考える子供」を育てることができるのである。
 授業においては,まず,子供自身が「語りたい,学びたい」という課題意識や課題追求への意欲を高め,学習の見通しをもつことができるようにすることが大切である。そのためには,道徳的価値や子供自身の生活について多様な観点から捉え直し,自らが納得できる考えを導き出す上で効果的な教材を選択し,その教材の特質を生かすことが必要である。それとともに,子供一人一人が意欲的で主体的に取り組むことができる表現活動や話合い活動を仕組んだり,学んだ道徳的価値に照らして,自らの生活や考えを見つめるための具体的な振り返り活動を工夫したりすることが必要である。その際,特定の価値観の押し付けにならないようにするとともに,学年段階に応じて,主体的かつ効果的な学び方を工夫することが大切である。例えば,読み物教材の登場人物への自我関与が中心の学習,問題解決的な学習, 道徳的行為に関する体験的な学習を取り入れる,またこれらの要素を組み合わせた様々な展開など,教材に応じて効果的な学習を設定するのも,その工夫の一つである。他にも,道徳的価値の理解を基に自己を見つめ,自己の生き方についての考え方を広げ深める観点から,話し合う活動や書く活動など子供一人一人の考え方や感じ方を表現する機会を充実させ,自らの道徳的な成長を実感できるようにすることが大切である。いずれの工夫においても,子供の実態を見据え,指導の意図に即して,適切か否かをしっかりと吟味することが必要である。
 子供は,様々な人との出会いなどを通して,このような生き方がしたい,このような生き方ができる自分になりたいと自己の生き方を考えるものである。そこで,自己の生き方について考えるきっかけとなるような各教育活動や日常生活での豊かな体験を道徳科の授業に生かすことで,「語りたい,学びたい」学習とすることもできる。そのため,各教育活動等で養われた道徳性が,道徳科の授業で調和的に生かされる道徳教育を展開することが肝要である。道徳科の授業のねらいが各教育活動等とどのように関連しているかを意識して,計画的・発展的にそれぞれの学習が行われることにより,子供の道徳性は一層豊かに養われていく。このことを前提にして,子供が自ら語り合い深め合う学びにしていくためには,発達の段階を踏まえながら,豊かな関わりをもつことのできる体験活動や学習を展開することが望まれる。また,子供一人一人は違う個性をもった個人であり,それぞれ能力・適性,興味・関心,性格等の特性等は異なっていることを踏まえ,学校や学級の実態に応じて教育活動を実施していく必要がある。このように,子供の実態を把握するためには,教職員全員の共通理解の下,子供を見取っていくことはもちろん,家庭や地域との連携を密にし,より道徳教育の充実を図ることが重要である。  道徳の時間において,「人間らしいよさ」を追求する場面では,人間のもつこうした二面性に留意して指導をする必要がある。この場合,大事なことは,人間は「人間らしいよさ」の萌芽をもって生まれ,なんびとも自らその芽を育て開花させることができるのだということを,子どもに確認することである。

(3)副主題について

 本年度は,前述主題についての研究を進めるに当たり,道徳科の授業の在り方に重点を置くこととする。そこで副主題を「子供が輝く 子供と創る 道徳科の授業」とし,授業における子供と教師のイメージを次のように捉える。
  子供は,一人一人が自分の個性を生かし,時に難しいと感じ悩むことも含め,楽しんで学んでいること。
 その過程においては,発達の段階に応じ,答えが一つではない道徳的な課題を一人一人の子供が自分自身の問題として捉え向き合い,一面的な見方から多面的な見方へと発展させていたり,他律的な思考から自律的な思考へと発展させていたりするなど,主体的かつ継続的に思考を巡らせていること。
 そのために,教師は,特定の価値観を押し付けることなく,子供の考え方や感じ方に共感したり,時に子供と共に悩んだり考えたりしながら,一単位時間の授業の舵を取ること。
 その土台として,一定の時間的なまとまりの中で,子供の学習状況や道徳性に係る成長の様子を把握しながら授業改善に努め,指導と評価の一体化を図り続けながら,よりよい授業を子供と共に創ろうとする構えを大切にしていること。 


 

3 研究内容と留意点

(1) 多様な学習指導の構想

・他者と対話したり協働したりして多面的・多角的に考えることのできる指導の工夫
・読み物教材の登場人物への自我関与が中心の学習,問題解決的な学習,道徳的行為に関する体験的な学習など,質の高い多様な指導方法の工夫
・情報モラルや現代的な課題に関する指導の工夫
・特別な支援を要する子供や海外から帰国した子供,日本語習得に困難のある子供等に対して配慮した授業の工夫

(2) 各教科等,体験活動等との関連及び家庭や地域社会との連携を生かした授業

・各教科等における道徳性の育成に資する学習の工夫と,それらを道徳科の授業に生かす工夫
・実践活動や体験活動の重視と,それらを道徳科の授業に生かす工夫
・学校と家庭や地域社会の相互連携の充実と,それらを道徳科の授業に生かす工夫

(3) 道徳科の授業における評価

・評価を指導の改善に生かす工夫
・子供が自己の心の成長を実感できる自己評価の工夫
・道徳科の授業における,子供の学習状況や道徳性に係る成長の様子を把握する工夫
・特別な支援を要する子供や海外から帰国した子供,日本語習得に困難のある子供等に対して配慮した評価の工夫


 *道徳的価値の理解・・価値理解,人間理解,他者理解を含む。

 参考・引用文献
『今後の道徳教育の改善・充実方策について(報告)~新しい時代を,人としてより良く生きる力を育てるために~』平成25年12月26日 道徳教育の充実に関する懇談会
『小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編』平成29年6月 文部科学省
『小学校学習指導要領解説 総則』平成29年6月 文部科学省
『考える道徳への転換に向けたワーキンググループにおける審議の取りまとめ』平成 28 年 8 月 26 日 文部科学省
『令和元年度道徳教育研究大会要項』令和元 年 11 月 15 日 北島町 立 北島北小学校