徳島県小学校教育研究会 道徳部会
 

平成23年度研究主題

1 平成23年度小教研道徳部会研究主題




一人一人の思いを深め 人間らしいよさを心にきざむ 
道徳の時間の指導の在り方





2 研究主題の趣旨

(1)研究主題設定の背景

 徳島県小学校教育研究会道徳部会では,平成20年度から研究主題「一人一人の思いを深め 人間らしいよさを心にきざむ 道徳の時間の指導の在り方」のもと,子どもたちが,自己の生き方についての考えを深めることができる道徳の時間のよりよい指導の在り方について,研究と実践を進めてきた。         
 継続研究3年目の昨年度は,吉野川市を中心として,全県下において研究が進められた。吉野川市大会が行われた牛島小学校においては,総合単元的な道徳学習を位置付けた全体計画のもと,子どもたちが人間の弱さ醜さに目を向けつつ,よりよい生き方を見いだしていく授業の在り方について研究と実践が行われた。また,各郡市においても,人間らしいよさを発揮して生きることへの素晴らしさに感動させる指導の工夫がなされた。
  しかし,研究が進み成果が挙がると同時に,更に追究すべき課題も生まれてきた。例えば,自己の振り返りの場面では,将来の自分の生き方について十分に思いを巡らした後,自分はこのような考えで生きていきたいという思いに至る指導の工夫をすることが必要であろう。また,子どもたちのよさや可能性に着目し,自己を肯定的に受け止め,自らの生き方の課題を見いだすことができるようにする方策を,明らかにしていくことが大切であると考える。 
  こうした課題も含めて,主題解題のためには,なお一層の研究と実践が必要である。そこで,昨年度に引き続き,「一人一人の思いを深め 人間らしいよさを心にきざむ 道徳の時間の指導の在り方」を研究主題として掲げ,取り組んでいくこととする。    
 

(2)研究主題について

「一人一人の思いを深め」とは

  人間は,かけがえのない存在として生まれ,一人一人人間としてよりよく生きたいという思いをもって毎日の生活を送っている。その思いは,様々である。先ず自分が健康でありたいとか,知識や技能を身に付けたいという,個人としてよりよく生きることに対する思いがある。同時に,他者も自分と同じような思いをもっていることを認め,他者と助け合ってお互い協力していこうという,社会的存在としてよりよく生きることに対する思いもある。また,衣食住など物質的に恵まれた生活についての思いと同時に,楽しい生活を送りたいとか,心豊かに生きたいという精神的生活についての思いももっている。
 このように人間は,自己の生き方について様々な思いをもって,時に挫折し,絶望したり苦悩したりしながらも,それを乗り越えて再び希望をもち,夢を描いて生きていく。その中で,人は時に立ち止まり,「自分の考えは,これでよいのか。」と自らに問い,人間としての自己の在り方や生き方を振り返りながら,よりよく生きようとするのである。
 道徳の時間において「一人一人の思いを深め」とは,子どもがよりよく生きるということについて,どのような思いをもっているかを明らかにし,自己の生き方を見つめる中で,自己の思いにどのような弱さや醜さがあるか,さらに,それを乗り越えて人間的なよさを実現する力があるかということを,子ども自身が見いだしていくことといえる。その折,子ども一人一人が内省するわけだが,決して自分一人で思いを深めていくわけではない。教師や友達などの発言を聞いたり,教材に描かれている主人公を通して道徳的価値に触れたりする中で,疑問をもつ,気付きや驚きを得る,共感をする,反問をする,納得をすることなどを繰り返していく。つまり,他者の影響を受けつつ,一人一人が,自分の体験と重ねたり比べたりしながら,心を動かしていくのだ。そして,自らの思いを深化・拡充させながら,一人一人が自己の生き方をよりよい方向へと変容させていくのである。

「人間らしいよさ」とは

 「人間らしいよさ」とは,人間としての本来的な在り方やよりよい生き方を目指してなされる道徳的行為を可能にする人格的特性であり,人格の基盤をなすものである。またそれは,人間に固有であり,人間の特性を表すよき事柄ということができる。そして,これらの根底にあるのは,人間は常に,より高い,より理想的な価値を志向する存在であるということである。
 ところで,「人間らしいよさ」について考察するとき,必ずしも肯定的・価値志向的な側面だけをみるのではない。もともと人間には,相反する側面がある。一つは,人間の有限性に由来する弱さ,醜さを許容する側面であり,これに対するのは,有限であるからこそ,それを乗り越えて絶対的なもの,よりよいものを求めていこうとする強さや気高さの側面である。このことから,「人間らしいよさ」とは,「自己の弱さや醜さの自認から,現状に安易にとどまろうとする誘惑を乗り越えて,理想を求め,強く気高く生きようとする姿」ととらえるべきである。
 道徳の時間において,「人間らしいよさ」を追求する場面では,人間のもつこうした二面性に留意して指導をする必要がある。この場合,大事なことは,人間は「人間らしいよさ」の萌芽をもって生まれ,なんびとも自らその芽を育て開花させることができるのだということを,子どもに確認することである。
 

「心にきざむ」とは

  「心にきざむ」とは,語義的には「心に深く印象付ける」ということである。つまり,これは,「心にとめる」とも「心に残す」とも違い,事柄をいつまでも忘れ得ぬように心に深くとどめておくということである。そして,そのように心にきざまれた事柄は,時を経ても場所を違えても,人間の心に色褪せることなく存在し続け,人間の生き方を支え定め,生きる上の道しるべとなる。
  道徳の時間においては,子どもたちが,「人間らしいよさ」を確実に理解し,しっかりと「心にきざむ」ことができれば,自己の生き方についての考えを深め,確かな道徳的実践力を育成することにつながると考える。なぜなら,「人間らしいよさ」を「心にきざむ」ことなく,単に「心にとめる・残す」というのであれば,それが切実に自分の課題とはならず,その後の生き方に反映されないかもしれないからである。
 そこで,道徳の時間には,「人間らしいよさ」を時に鮮烈に,時に心の襞に染み入るがごとく,何時までも消えぬよう確実に心にとどめ,子ども自身が自己の生き方についてより深く考えることができるようにする必要がある。そのためには,子どもの心が強く感動すること,豊かなイメージがもてること,事柄の意味を深くかつ正確にとらえること,子どもが納得することなどを実現する指導の手立てが肝要となってくる。また,子どもたちが,「人間らしいよさ」を主体的に「心にきざむ」ことができるような道徳の時間の指導の工夫も大事である。


 

3 研究内容と留意点

 上記した研究主題を具現化するには,学校全体にかかわる道徳教育についても,丁寧に見直す必要がある。何故なら,子どもたちを取り巻く道徳教育全体が充実してこそ,その要となる道徳の時間がよりよいものとなるからである。例えば,道徳教育推進教師の役割や作成された全体計画が,道徳の時間に,どのように生きて働くものとなっているかを問い直すことなどからも,道徳の時間の指導の在り方を考えることができよう。本年は,なお細やかに道徳の時間の指導の在り方について研究と実践を深めていくと同時に,道徳の時間に有機的につながる道徳教育の在り方に関しても,さらに研究と実践を進めていくものとする。

(1)  道徳の時間の充実・改善に資する推進体制の確立

・校長の道徳教育に対する方針を具現化する工夫
・全教師が道徳教育に関し,力を発揮できる機能的な協力体制の充実
・道徳教育推進教師を中心として道徳教育を展開する工夫
・道徳の時間の充実・改善に資する推進体制の評価

(2) 道徳の時間に機能する指導計画

・各学校の特色を示し,実際に活用できる有効で具体性のある全体計画
・発達段階に応じて指導の重点化を図った年間指導計画(総合単元的な道徳学習など)
・教師や子どもの個性を生かした学級における指導計画
・より実効的かつ機能的に働くための指導計画の評価

(3) 自己の生き方についての考えを深めるための指導過程・指導方法

・3段階(導入,展開前段・後段,終末)にこだわらない多様な指導過程
・1時間1主題の枠組みにとらわれない指導過程
・共感的手法や批判的手法など多様な指導の工夫
・ねらいを達成するための思考を深める発問・板書・役割演技などの工夫
・一人一人の感じ方や考え方を深めるための書く活動や話合い活動の工夫
・自分とのかかわりで道徳的価値をとらえ,自己の生き方についての考えを深めるための工夫
・道徳的価値の自覚や自己の生き方についての考えを深めるための指導過程・指導方法の評価
・道徳性の高まりに関する評価

(4) 自己の生き方についての考えを深めるための教材の開発・選定・活用

・発達段階に応じ,各学年で重点化された内容項目に関した教材の開発・選定
・子どもの様々な体験,教師の体験や願い,地域の文化や特性,保護者や地域の人々の生き方などを素材とした,子どもの心に響く教材の開発・選定
・子どもの興味や関心を高めるため,写真,新聞,VTR,CD,調査データ等の活用
・教材の開発・選定・活用の評価
 

(5)  道徳の時間と他の教育活動との関連

・各教科等の道徳性の育成に資する充実した学習と,それらを道徳の時間に生かす工夫
・学校の特色を生かした体験活動の重視と,それらの体験を道徳の時間に生かす工夫
・体験の中にある道徳的価値に気付き深める道徳の時間の工夫
・道徳の時間と他の教育活動との関連についての評価 

(6)  道徳の時間の充実を図るための家庭や地域社会との連携

・保護者や地域の人たちの願いが生きたり,参加が得られたりする道徳の時間の工夫
・家庭や地域社会への積極的な授業公開の工夫
・小学校間や異校種間等との連携を生かした道徳の時間の工夫
・家庭や地域社会との連携の在り方についての評価