平成25年度 外国語活動部会研究計画
1 研 究 主 題 コミュニケーション能力の素地を養う外国語活動
2 研究主題設定にあたって
新しい知識・情報・技術が社会のあらゆる領域で飛躍的に重要性を増す「知識基盤社会」と呼ばれる変化の激しい時代を生きていくためには,さまざまな資質や能力が必要とされる。特に異なった言語や文化をもつ人々に対して,相手の立場を尊重しながら理解したり,自分の考えや意思を表現したりするコミュニケーション能力は重要なものである。しかし現在,我が国の教育現場においては,学習意欲の低下,自分への自信の欠如や将来への不安などの課題が挙げられている。そして学校生活においては,友達とうまくコミュニケーションが図れないことが原因と考えられる深刻な問題が日々起こっている。子どもたちが自分への自信や将来への夢をもってしっかりと生きていく ために,また自他の違いを認め,思いやりの気持ちをもって,さまざまな人とかかわり合って生きていくために,コミュニケーション能力を高めていくことが今後いっそう求められる。
一方,学習指導要領によると,外国語活動の目標は次の三つの柱から成り立っている。
①外国語を通じて,言語や文化について体験的に理解を深める。
②外国語を通じて,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図る。
③外国語を通じて,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませる。
外国語活動は,この三つの柱を踏まえた活動を統合的に体験することで,コミュニケーション能力の素地を養っていこうとするものである。コミュニケーション能力の向上が求められる今,外国語活動の果たすべき役割は大きい。本部会では,上のような現状を踏まえつつ,学習指導要領の理念や基本方針の実現を図るために,三つの柱に重点を置いた外国語活動の研究を進めていくものとする。
3 研究主題について
(1) コミュニケーション能力とは
コミュニケーションについては様々な定義があるが,「ことば・文字・身振りなどによって, 意思・感情・思考・情報などを伝達・交換すること」(明鏡国語辞典)であると考える。そして, そのコミュニケーションを円滑に図るために必要なコミュニケーション能力とは,単なる情報や 知識の伝達能力だけではなく,相手に対する関心や想像力,理解力,思いやり,表現の技能や工夫などを伴った力である。つまり,受け止める側には,相手の言っていることを聞こうとする姿勢や,相手の言っていることから内容を理解する力,加えて相手からの非言語による発信をも受け止める力などが必要であり,発信する側には,相手に聞き取りやすい話し方や声の大きさ,相手が理解しやすい表現で話す力などのほか,場の雰囲気を理解したり豊かな表情やジェスチャーができることも大切な力となるのである。
(2) コミュニケーション能力の素地について
コミュニケーション能力の素地とは,外国語活動を通して養われる「言語や文化に対する体験的な理解」「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度」「外国語の音声や基本的な表現への慣れ親しみ」を指したものである。これらは,中・高等学校の外国語科で示すコミュニケーシ ョン能力につながるものであり,中学校における外国語科への円滑な移行を図るための基になるものである。
「言語や文化に対する体験的な理解」とは,外国語活動を通して言語や文化への理解を深める ことである。日本語とは異なる言語に触れることで,言葉の面白さや豊かさに気付いたり言葉へ の関心を高めたりできるであろう。また世界には,さまざまな言語や文化があることに気付き,多様な文化をもつ人々と共に生きていこうとする態度を身に付けるであろう。さらに外国の文化を知ることにより,自国の文化についても気付くことが期待できるのである。
「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度」とは,子どもたちに他者,社会,自然・ 環境とのかかわりの中で,これらと共に生きる自分への自信をもたせるため,態度面の育成を目指すものである。自分が理解できない言語環境に置かれた時,簡単にあきらめてしまうのではなく,何が話されているのかを推測し,どう伝えたらよいのかを考えて問題を解決しようとする態度を育てたい。特に大切にしたいのは聞く力の育成である。聞き慣れない言葉を話す相手であっても相手が言っていることを理解しようとする姿勢や推測する力を育てるためには,聞く内容や聞かせ方に工夫が必要である。さらに,聞いていて「わかった」と思える体験をたくさんさせることも大切になってくる。伝える力を育てるためには,伝えたい内容と伝える相手がいなくてはならない。そして何を言っても相手はしっかりと受け止めてくれるという互いの信頼感がなくてはならないだろう。それらがあって初めて,伝達手段としての言葉を使おうとするのである。限られた語彙を用いて,あるいは表情やジェスチャーなども駆使しながら,伝えようとする態度が育つのである。
「外国語の音声や基本的な表現への慣れ親しみ」とは,外国語に対する情意面でのハードルを下げることである。外国語活動は,週1時間,2年間でわずか70時間である。実生活で使う必要性も乏しい環境の中で,スキルの向上を目指したところでなかなか定着は図れない。むしろ友達や指導者と楽しく活動しながら,音やアクセントの違いを意識して実際に発音してみたり,相手の発音を聞き取って理解したりする体験を繰り返し,結果として「言えた」「わかった」という喜びを味わわせることが大切である。
これらのコミュニケーション能力の素地を育てていくことにより,コミュニケーションへの意 欲や態度が育つのである。「素地の木」は大きく成長し,やがてきれいな花を咲かせ,実を結ぶ であろう。言い換えれば,聞いてわかる楽しさ,伝える楽しさなどの体験は,もっと外国語を びたい,世界のことが知りたいという夢につながっていくのである。そうした夢を持つことにより,子どもたちの内面に,異なる言語や文化をもつ人たちともかかわり合い,わかり合おうとする豊かでたくましい人間性を培っていくことが期待できるのである。
4 研究の内容と方法
(1) 各校の実態に応じた年間指導計画の見直し
年間指導計画については,各学校で作成されているが,外国語活動が実施されて2年が過ぎ,教材が「英語ノート」から「Hi,friends!」へと代わった今,過去の実践を振り返るとともに年間指導計画を見直す段階にきている。年間指導計画を見直す際には,外国語活動の目標や趣旨が反映されているかを確認するとともに,年間を通して育てたい子どもの姿を明確にする必要がある。具体的には,単元や授業,活動の中に,子どもの知的好奇心を満たす活動や目的のある活動が盛り込まれているか,語彙や表現との出会いを工夫する場面設定がなされているか,相手意識や伝 えたい中身のある活動になっているかなど,コミュニケーションの要素がきちんと位置づけられ,反映されているかを今一度見直す必要があるであろう。
外国語活動は,対人的なコミュニケーションを中心としているため,子どもの興味関心に合わせて対話への動機付けを高める工夫を加えていくことが大切である。子どもの目が輝き,思わず英語を使いたくなったり,進んで相手とコミュニケーションを図りたくなったりするような内容 を年間指導計画に盛り込みたいものである。尚,年間指導計画を作成するにあたっては,高学年の担任だけがかかわるのではなく,全校で取り組めるように校内体制を整えていくことが重要である。
(2) 研究主題に沿った効果的な指導
○ 指導者の役割・指導体制
子どもたちの外国語への不安を取り除き,新しいものへ挑戦する雰囲気を作り出すためには,豊かな子ども理解と高まり合う学習集団づくりが求められる。失敗の恐れや心配もなく,互いに学び合うことができる相互信頼に基づいた学習環境づくりが重要である。また自己表現したいという気持ちをもたせるようにするためにも,指導者は子どものことをよく知っている学級 担任が望ましい。子どもにとって指導者は,英語を使ってALTや外国人ゲストとかかわろうとするコミュニケーションのモデルであり,わからないことに出会った時,どのようにして解決すればよいのかを示す学習者としてのモデルであり,子どもと英語,子どもとALTをつなぐ橋渡しの役割を担っている。まずは,指導者が英語を使ったコミュニケーション活動を楽しみ,チャレンジする姿を子どもたちに見せることが大切なのである。さらに,思いを伝え合ったり文化の違いを理解し合ったりするためには,ティーム・ティーチングによる指導が効果的である。指導者それぞれの特性やよさを生かした役割分担をするためにも,打ち合わせ等で指 導者どうしのコミュニケーションが図られていることが大切である。
○ 活動内容と指導法
教材については,「Hi,friends!」を参考にすることが多くなるであろう。しかしそれをそのま ま使うのではなく,子どもの実態や興味に合わせ,場面設定や相手意識,伝える内容等を考え て活用する必要がある。聞くことによって何か目的が達成されるという目的意識や,子どもたちにとって意味がある内容,心が動くような内容があって,初めて積極的に「聴こう」とする態度が身に付くのである。活動内容を考える際には,聞く活動を大切にしたいものである。また,他教科・領域等で学習したことを関連させたり,逆に外国語活動で学んだことを他教科・領域で取り上げたりすることによって,子どもたちが興味関心をもち,指導の効果を高めることができる。さらに行事等,各学校や地域の特色,身近な人々を扱うことによって,外国語に親近感をもち,子どもたちの心を動かす活動となる。
指導法としてさまざまな活動が考えられるが,子どもたちの知的好奇心に働きかけるなど,発達段階を考慮し目的意識をもって行うことが求められる。速さを競うあまり,言葉が乱暴に なったり音声が荒れたりするのでは逆効果である。また,大きな声や大げさなやりとりも,外 国語活動の本来の目標に沿うものではない。心の動きや思いがしっかりと詰まった豊かな言語 活動が行われているかどうかを振り返る必要があるだろう。指導者は,短期的な目標だけでな く,子どもたちに将来どのような言葉の使い手になって欲しいのかということも視野に入れ, 指導法を考える必要がある。今行っている活動は,長い学習過程のどの部分であるのかという全体像の中で,小学校外国語活動が担う役割を自覚したい。
○ 言葉や表現に慣れ親しませる工夫
45分間の授業で,何を経験させ何ができるようになって欲しいのかというねらいだけに目がいくと,覚えさせたり無理に発話を求めたりして,外国語へのハードルを高くしてしまうおそ れがある。取り扱う言葉や表現については,繰り返し聞く活動や,少人数で行う活動で十分慣れさせたい。よく聞いて考える活動をしっかり体験させ,子どもたちの実態を考えながら発話 につないでいくことが効果的である。慣れ親しみの活動では,楽しい中にもさりげなく外国語 へのハードルを取り除き,いつの間にか言葉や表現に慣れ,発話していたという状況が理想な のである。
○ 効果的な教材教具・ICTの活用
授業実践の事例や,カードなどの教材教具,電子黒板等マルチメディア教材の効果的な活用など,研修会を通して情報を共有し,それぞれの学校や教師が工夫して授業に取り入れていく ことが求められる。特に,電子黒板を効果的に活用することで,テンポよく授業を進め,子どもの集中力や意欲を高めたり,外国語の音やリズム,表現に慣れ親しませたりすることができ る。また,写真や映像などを見せることで,外国文化への興味関心を高めたり,理解を深めた りすることもできる。さらに,音声を途中で止めたり,絵を隠したりすることで,子どもに考 えさせたり,集中して聞かせたりする効果も期待できる。教材教具やICTを有効に活用する ことは,子どもにとっても指導者にとっても外国語活動をより楽しく,より充実させる手立て となる。そのためにも,研修を通して,教材教具やICTを有効に活用する技術を習得する必 要がある。
(3) 評価と支援
評価を行うにあたっては,学習のねらいを明確化し,それに沿った評価規準を作成する必要が ある。評価規準を設定することにより,授業の中で求める子どもの具体の姿とともに,どう指導すればよいかが明確になる。尚,一つの授業,一つの単元の中で全ての観点について評価する必要はなく,年間を通して全ての観点が評価されていればよい。
評価の方法としては,自己評価や相互評価,教師による行動観察,子どもの発言などから,学 習状況や変容を的確に把握した上で,指導の見直しや改善に生かせる評価の在り方を探っていく 必要がある。
支援については,子どもたちの積極的な活動や人とのかかわり,気付きなどを捉えて指導者が ほめたり励ましたりすることが大切である。他の学習場面では活躍することが少ない子どもたち が,外国語活動では生き生きと目を輝かせて活動していることがある。また,普段,人とかかわることが苦手な子どもが勇気を出して声をかけ,その子なりにコミュニケーションを図ろうと努 力している姿が見られることもある。それは,自分を表現できる楽しさや自分が受け止められる 喜びを体験できるからであり,個々の子どもの努力や成長がわかるのは日々生活を共にしている 担任である。担任による言葉がけは,個々の子どものよさを認め伸ばしていくことにつながるの である。外国語活動は,知識や技能の育成だけに重点を置いたものではなく,子どもの「心」を 育てていく学習活動でありたい。
(4) 小中連携
中学校の外国語学習は,「コミュニケーションに対する積極的な態度」などの,一定の素地が 育成されていることを踏まえて開始される。小学校を卒業する時には,中学校での外国語学習を 楽しみにしているといった気持ちを育てておくことが大切であろう。アルファベットくらい書けるようにしておくという考え方ではなく,これから始まる外国語学習への期待や憧れ,意欲を育 てて中学校へ送り出したい。
小中連携を進めるには,3段階のステップがあると言われている。第1段階は,互いの授業を 参観したり,合同で授業研究会を行ったりする情報交換の段階である。第2段階は,教師どうし, 児童と生徒,児童と中学校教師,生徒と小学校教師が行う交流の段階である。そして第3段階は, 小中で指導目標の一貫性や指導内容の系統性,指導方法の継続性などを連携していく段階である。連携は簡単にできるものではないが,まず近隣の小学校間で,そして地域の小・中学校間で授業参観や研究会を通して情報交換を行い,互いのことを知ることが出発点となるであろう。そして,学習指導要領が示す目標に沿った授業づくりについて各校が実践研究を進めるとともに,交 流を続けることで互いの理解を深め,将来的にはそれらを共有し,外国語学習における学校間の円滑な接続について検討していく必要がある。小中連携は一朝一夕にできるものではないが,管理職や教育委員会のリーダーシップの下,進めていく必要がある。
5 研究の進め方
(1) 各郡市の実態に応じ,個人または協同で研究を進める。
(2) 研究した内容を研究集録にまとめる。
(3) 夏季研修会で実践的な研究を深める。 8月 徳島市で開催予定
引用・参考文献
文部科学省:小学校学習指導要領解説 外国語活動編
国立教育政策研究所:評価規準作成のための参考資料 ・評価方法等の工夫改善のための 参考資料 第4編 外国語活動
教育開発研究所:平成23・24年度実施 新教育課程モデル事例集
No.2小学校外国語活動モデル事例集 (編集:直山木綿子)
大修館書店:明鏡国語事典