平成25年度 図画工作部会研究計画
1 研 究 主 題
かかわり つながり 思いを豊かに表現する子どもの育成
- 子どもが自分の感覚や感じたことを生かし,つくりだす喜びを味わう造形活動 -
2 研究主題設定にあたって
これまでの「生きる力」の基本理念を引き継いだ新学習指導要領が平成23年度より全面実施された。図画工作科についても,その理念を継承しながら内容などの改善が図られ,目標として,「表現や鑑賞の活動を通して,感性を働かせながら,自らつくりだす喜びを味わうようにするとともに,造形的な創造活動の基礎的な能力を高め,生活や社会と主体的にかかわる態度を育て豊かな情操を養う」ことが示された。目標に「感性を働かせながら」の文言が新たに加わり,表現や鑑賞の活動において,子どもが持っている感覚や感じ方などを一層重視することが明確にされた。「感性」は,様々な対象や事象を心に感じ取る働きであり,知識や理解などと一体となって創造性をはぐくむ重要なものである。「感性」を働かせることによって生まれる気付きや感動,学習意欲から,子どもは形や色,イメージなどをとらえて自分自身と対話したり周りの人たちと交流したりしながら,思いを豊かに表現し,よさや美しさなどを感じ取っていく。
豊かな感性や情操を育てるために,図画工作科では,よさや美しさを豊かに感じ取ること,自分の思いや考えを生かしてつくりだすこと,その喜びを実感的に味わうことなどを重視している。そして,子どもが自らの行為や感覚をもとに形や色,イメージなどを活用して活動することができるように領域や項目などを通して共通に働く資質や能力〔共通事項〕が示された。〔共通事項〕から表現や鑑賞の過程で働く力を明確にするとともに,それらが関連して働くように指導内容の工夫,改善を図ることが求められている。
これまで,図画工作部会は,「造形活動における『対象』とのかかわり」,「学習内容の系統性」,「造形表現の基本的なことがら」,「地域の『ひと』『もの』『こと』とのかかわり」を研究の視点とし,「各学年で指導すべき内容」や「思いを豊かに表現する題材や指導方法」について解明し成果をあげた。平成22・23年度には,「子どもがどのように感性を働かせているかを〔共通事項〕の視点からとらえて具体化し,どのように目標を設定したり指導や評価を考えたりすればよいか」を研究の重点内容にして取り組んだ。〔共通事項〕から子どもを見つめたり,それらを表現及び鑑賞の学習の基盤となる指導事項として考えたりすることで指導の改善を図ることができた。
平成24年度には,これまでの「かかわり」「つながり」「思いを豊かに表現する」から得られた研究成果を生かし,本県の図画工作科の課題である「子どもが感性を働かせ,意欲的に表現するという一連のプロセスを通して,発想や構想の能力を具体的に発展させる指導をどのように工夫するか」,「子どもが材料や用具を十分に用いながら,試行錯誤をしたり製作の手順を考えたりするなどを通して創造的な技能をどのように育成するか」に取り組み,指導の充実・改善に向けた研究を行ってきた。その結果,子ども一人一人が意欲を持ち続け,つくる喜びを繰り返し味わうことが大切であり,そこで得られた喜びや自信は,形や色などに対する好奇心や材料や用具に対する関心,つくりだす活動に向かう意欲などの造形への関心や意欲,態度を支えるものとなることを強く感じた。子どもが自分の感覚や感じ方,表現の思いなどを働かせ,つくりだす喜びを味わうことを通して,造形的な創造活動の基礎的な能力を培い,豊かな情操を養いたい。そこで,研究主題を「かかわり つながり 思いを豊かに表現する子どもの育成」,副主題として「子どもが自分の感覚や感じたことを生かし,つくりだす喜びを味わう造形活動」とし,研究の方向性や具体的な改善策を明らかにし,図画工作科の指導の充実・改善を図る。
3 研究主題についての考え方
(1)「かかわり」とは
造形活動を豊かにするために,子どもが「表現材料」(何で),「表現内容」(何を),「表現方法」(どのように)と主体的なかかわりができるように指導を改善する。その際,子どもが自分の感覚や活動を通して形,色,動きや奥行きなどの造形的な特徴をとらえ,それらを基に自分のイメージをもつ〔共通事項〕の視点で,これまでの指導内容や方法を検討し,表現や鑑賞が行われるようにすることが大切である。また,造形活動の中に「ひと」「もの」「こと」とのかかわりを取り込むことで,好奇心や有能感,自己肯定感が高まり,主体的に造形活動に取り組む意欲や豊かな感性が育まれる。例えば,表現や鑑賞の活動において,子どもは周りの人とのかかわりを通して,互いの違いやよさに気付き,自分の見方や感じ方,表現を広げ深めていく。さらに,これらとのかかわりの中で,図画工作科の内容と実生活をつなげ,故郷のよさを発見したり人々との絆を築いたりしていくことを実感としてとらえさせたい。
(2)「つながり」とは
子どもの造形活動には,「こうしたい。」「あっ!あの方法も使える。」と,既習事項を生かし表現する姿が見られる。ここでは,これまでの経験や培った技能を基に,自分の感性を働かせ表現や鑑賞するという「つながり」(学びの連続性)が生まれているのである。子どもの発達段階に応じて,幼稚園,小学校,中学校の指導事項に配慮し,育成する資質や能力が身につくように年間指導計画や題材設定,指導方法等を工夫することが大切である。「つながり」を踏まえた指導を積み重ねることで,発想や構想の能力,創造的な技能が身につき,生涯にわたり芸術や地域に根ざした芸術文化に親しむ態度が育っていく。
(3)「豊かに表現する」とは
表現活動においては,子どもの感覚や感じ方,表現の思いを重視し,子どもが自分の感性を働かせ活動
できるように造形活動を充実させたい。そのために,発想の手がかりになる視点や方法を示したり,表し
方を構想するための方法を提示したりして発想や構想の能力を培う。また,子どもが十分に材料や用具に
親しむ場所や時間を確保するとともに,製作の手順を考えたり試行錯誤をしながら表現を工夫したりできる学習過程を展開し創造的な技能の育成を図る。鑑賞の活動では,身近な作品の形や色などの造形的な特徴,表現の意図や表し方の工夫を具体的にとらえたり,話し合ったり,時には自分のつくったものを友達と交換して遊んだりするなどして,子どもの鑑賞の能力を効果的に育成することが大切である。
表現と鑑賞は本来一体であり,相互に関連して働き合うものである。これらの活動を充実することで,
感性が育まれ,豊かな表現が生まれる。
(4)「子どもが自分の感覚や感じたことを生かし,つくりだす喜びを味わう造形活動」とは
子どもは五感を働かせながら,形や色,イメージなどをとらえている。表現及び鑑賞では,子どもが自分の感覚や感じ方,表現の思いなど,自分の感性を十分に働かせることができるように,子どもの発達段階に応じて,材料との出会いや題材の提示などを工夫したい。本来,子どもには表現欲求があり,感性を働かせ表現したり鑑賞したりすることが喜びであり楽しい活動となる。表現や鑑賞の活動においては,体感や実感を伴って感じ取れる活動を重視し,表現方法をいろいろ試みることができる活動の場や時間の確保が大切である。表現に対する指導者の個に寄り添った支援や安心して活動できる雰囲気づくりなども必要となってくる。
指導者が,子どもに本来備わっている資質や能力を伸ばそうという意識を持ち,造形的な創造活動の基礎的な能力が培うように,つくりだす喜びを味わう造形活動を展開する。つくりだす喜びを味わうことを繰り返すことが,主体的な創造活動を支えることにつながる。
4 研 究 内 容
(1) 発達の段階や指導の系統性を踏まえた指導計画の作成
学習指導要領では,子どもの発達段階に応じて,学習内容の連続性に配慮し,育成する資質や能力と学習内容との関係が明確に示された。各学年で指導すべき内容や事項を踏まえ,題材の焦点化や題材の配列の工夫,適正な評価を考慮し指導計画を作成する。その際,子どもの学習意欲を高めるために,発達段階に応じて,系統性を踏まえた学びが展開できるように工夫する。また,子どもの発達段階に即した適切な題材の設定や各教科等との関連を意識した題材の設定を行うことも大切である。
指導計画の作成の際には,「A表現(1)材料を基に造形遊びをする活動」と「A表現(2)表したいことを絵や立体,工作に表す活動」のバランスや〔共通事項〕の視点から指導計画や内容,方法を検討し,目標を設定し,具体的な指導と評価を考えることにも留意する。
(2) 豊かな表現を支える指導方法の工夫
子どもは,材料との出会いや提示された題材に触発されて表現の思いを膨らませ,表現や鑑賞活動を通して,見たり感じたりする力,次にどのような形にするかを考える力,それを実現するために用具や材料を工夫する力などを発揮する。まず,「おもしろそうだ。」「やってみたい。」という気持ちが喚起するように,材料との出会いや材料への働きかけを工夫したり,子どもの必要感や表したい思いに沿った題材を設定したりするなど題材の設定や学習の展開を工夫する。
次に,感性を働かせ,自分なりに考え,創意工夫して表現したり鑑賞したりする一連のプロセスで働く造形的な創造活動の基礎的な能力を培う。そのために,形や色,イメージなどを基に想像をふくらませたり,表したいことを考えたり,計画を立てたりできる学習過程や手や体全体の感覚を働かせて材料や用具等を用いたり,表現方法をつくりだしたりできる学習過程を設定する。その際,既習事項に配慮し,育成すべき能力の積み重ねを図ることで,子どもの表現が豊かになるよう指導方法を工夫する。
また,表現や作品について,「話したり,聞いたりする」「話し合ったりする」などの学習活動を位置づけ,形や色,イメージなどから感じ取ったことを伝え合うといった場を設けるなど,言語活動の充実を図る。自分の気持ちや感じたこと,表現の思いを言葉にすることにより,対象の美しさや造形的な要素,表現の意図などが明確になったり,形や色,イメージなどの視点から感じ取ったこと考えたことなどが整理されたりする。そのことで,表現と鑑賞が相互に働き合い,豊かな表現へつながっていく。
(3)一人一人のよさを生かす評価の工夫,改善
指導者が授業の目標を明らかにし,何をどのように評価するのかを明確にする。『評価規準の作成,評
価方法等の工夫改善のための参考資料』(国立教育政策研究所)などを活用し,評価の進め方や手順を工夫,改善する。評価の進め方として具体例を示すと次のようになる。
①各学年で育成する資質や能力,学習内容,子どもの実態を考慮し題材の目標を設定する。
②設定した目標について〔共通事項〕の視点から評価規準を設定する。
③評価規準を「指導と評価の計画」に位置づける。
④評価方法や評価資料を明確にする。
⑤造形への関心・意欲・態度,発想や構想の能力,創造的な技能,鑑賞の能力の観点ごとに総括する。
また,指導者間で,事例を持ち寄り作品や製作過程の観察で得た評価情報などを基に評価の在り方を研
究したり,子どもによる自己評価や相互評価を取り入れたり,家族や地域の人々からの情報を収集したり
することなども,子ども一人一人のよさを生かす評価につながる。
(4)地域の「ひと」「もの」「こと」とのかかわりの重視
暮らしの中の造形や我が国や諸外国の親しみある作品についての学習では,よさや美しさを子どもが主体的に味わったり感じたりすることを重視する。また,故郷の自然や地域の伝統行事,体験活動などにかかわったり,地域の美術館と連携して授業や鑑賞の機会を設けたりして,地域の文化や伝統を大切にする態度の基礎を養うことは,地域を大切にし,人との絆を築くことにつながっていく。さらに,子どもの学びを掲載した通信や地域での作品展などを通して,子どもの学びを家庭や地域に発信し,受信することも大切にしたい。自分の表現が認められることで喜びや達成感を味わい,その喜びや達成感が表現への自信や意欲につながる。さらに,生活や社会に主体的にかかわる態度も育つ。家庭や地域の人々の支援や協力によって,地域の個性に根付いた活動も期待でき地域の人々とのふれあいも深まる。このような連携から生まれる教育成果も大きい。
5 研 究 方 法
(1)研究大会の会場校である阿南市立津乃峰小学校を中心とする研究組織をつくり研究計画を立てる。また,発表担当の各郡市の研究組織と協働しながら事前研究や授業実践を行い研究内容の解明を図る。
津乃峰小学校では,1~6学年の授業公開と分科会を実施する。
1・2年 分科会主題 | 造形活動を楽しみ,豊かな発想をするなどして,体全体の感覚や技能などを働かせて表現するとともに,つくりだす喜びを味わい,身の回りの作品などから面白さや楽しさを感じ取るようにするにはどうすればよいか。 |
3・4年 分科会主題 | 材料などから豊かな発想をし,手や体全体を十分に働かせ,表し方を工夫し造形的な能力を伸ばすとともに,身近にある作品などから,よさや面白さを感じ取るようにするにはどうすればよいか。 |
5・6年 分科会主題 | 材料などの特徴をとらえ,想像力を働かせて発想し,主題の表し方を構想するとともに様々な表し方を工夫し造形的な能力を高め,親しみのある作品などから,よさや美しさを感じ取るようにするにはどうすればよいか。 |
(2)各郡市研究会は,研究主題の解明に向けて共通理解を図り,研究や授業実践を行う。
(3)研究成果をまとめ,研究集録(第50集)を発刊する。
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